Apr 06, 2009

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 「この数年、日本政治について書いてきたが、前原(誠司外相)の辞任は、そのなかで最もバカバカしい出来事の一つといえるかもしれない」

 米東部時間3月6日昼、こんな英語のつぶやきが、いちはやくツイッター上を駆けめぐった。前原外相が、子どものころから親しくしている焼肉店経営の78歳の在日韓国人女性から5年間で計25万円の政治献金を受け取った事実が、外国人からの献金を禁ずる政治資金規正法に抵触。野党から責任を追及され、就任わずか半年で辞任を決断したというニュースを受けてのことである。

 つぶやきの主は、米ボストン在住のトバイアス・ハリス氏だ。本紙アジア版や米主要誌への寄稿や講演のかたわら、マサチューセッツ工科大学(MIT)政治学部博士課程で研究を重ねる新進気鋭の日本政治・外交アナリストである。同日、前原外相辞任の件で、米ニュース放送専門局CNBCアジアにも出演した。「the silliest thing(最も愚かなこと)」という単語に、若手日本政治ウォッチャーの相当ないら立ちが見て取れる。

 「日本の農業制度を改革すべきか否か、どのように改革すべきかなどを話し合い、(関税撤廃を目指す)環太平洋経済連携協定(TPP)への参加の是非を議論することが求められているというのに、日本の政治システムは、取るに足らない『法律違反』にきゅうきゅうとしている」と、ハリス氏は、本コラムの取材に対し、そう指摘する。

 親米政治家として知られる前原外相の辞任が日米関係改善の足を引っ張りかねないと懸念する声もあるが、「今春、開かれる見通しの閣僚級『日米安保協議委員会(2プラス2)』は、すでに最終調整段階に入っているため、必ずしも影響が出るとはかぎらない」と、米ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所所長のケント・カルダー氏は言う。

 一方、法律違反は事実にせよ、40年近くも京都市でレストランを開いている「特別永住者」(永住外国人)からの小口献金が、外相を辞任に追い込むほどの致命的な問題だろうか、とクビをかしげる米識者は多い。西海岸のワシントン大学ヘンリー・M・ジャクソン国際研究大学院で教鞭を執るマリー・アンチョードギー教授(日本研究)も、その一人だ。同教授は、今回の一件を「日本の政治システムの迷走ぶりを示すもの」としつつ、日本には、「相対的な外国人アレルギー」が根っこにあると、分析する。

 「外国人の潜在的な影響をちらつかせただけで、(政治家には)命取りになる。だから、前原外相は慌てて辞めてしまった。選択の余地がなかったのだ」

 今回の外相辞任を奇異に感じる米国人が少なくない背景には、米国では、「グリーンカード(永住権)」を持っている永住外国人は、国籍にかかわらず、米国市民同様、政治献金が許されているという現実がある(選挙権はない)。数年前にグリーンカードを取った筆者も、国籍は日本だが、自由に政治献金ができる。仕事柄、特定の政治団体への献金は控えているが、「権利」があるのとないのとでは大違いだ。

 前原氏は、辞任会見で、「外相が外国人から献金を受けていた事実は、重く受け止めざるをえない。日本外交の信頼性を揺るがすことになれば、本意ではない」と語った。だが、渦中の女性のように在日韓国人1世だけでなく、日本で生まれ、育った2世、3世、4世の在日韓国人も「外国人」とみなし、「国政への外国からの影響を防ぐ」ために献金を禁ずる根拠とは、はたして何なのか。

 もちろん、米連邦選挙運動法(FECA)でも、連邦、州、地方を問わず、選挙がらみの外国人の献金は、ご法度だ。「米国の選挙に外国が介入するのを防ぐため」(連邦選挙委員会)である。だが、グリーンカード保有者は「もはや外国人とはみなされない」ことから、政治献金をはじめ、退職後の社会保障や政府の奨学金、選挙権を除く、ほとんどの法的権利などを享受できる。通常、グリーンカード取得後3-5年で市民権を取る資格ができるが、グリーンカードのままで米国に永住することも可能だ。

 こうした日米の相違について、そもそも米国で生まれた人には、国籍や人種、親の法的ステータスにかかわらず、米国籍が与えられる(米国憲法修正第14条)が、日本では親の国籍で子どもの国籍が決まると、『Immigrant, Inc.(移民株式会社)』の共著者でもあるオハイオ州の移民法専門弁護士、リチャード・ハーマン氏は指摘する。

 「日本では、生まれたときから、国籍によって、アイデンティティーが分断されやすい。外国から不当な影響力が行使されるのではないかといった過剰な懸念があるように思える」と、同弁護士は話す。米国には、永住外国人を「除外」するのではなく、さまざまな声を「取り込む」ことで、より豊かな国ができるという認識があるという。

 こうした問題について、在日韓国人の人たちは、どう考えているのだろうか。日常生活では、自分のアイデンティティーを感じることはほとんどないが、選挙や渡航時には意識せざるをえないと語るのは、神奈川県大和市在住の在日韓国人3世の男性だ。韓国でも、「徴兵も課せられず、納税もしていない」という理由で、在日韓国人に対する不公平感があるという。一方、生まれ育った国、日本でも、献金などによる選挙活動は許されない。

 「以前、在日の友人と訪韓したとき、飛行機の窓から日本海を眺めて、こうポツリと男友達に言ったのを思い出す。『あの国境線あたりが、オレたちの居場所なのかな……』って。献金許可への世論の厚い壁を考えると、けっきょく帰化の選択しかないのか、と考えることもある」

 米国国土安全保障省(DHS)の統計によれば、2009年時点でのグリーンカード保有者は、全米で1245万人。帰化せず、長年、永住外国人として暮らす人も多い。だが、米国で生きる道を選び、納税し、何十年も住んでいることが忠誠心のあかしだと、ハーマン弁護士は言う。

 前原外相の一件をめぐっては、与党内からも「外国人からの献金を禁じるのは当然」といった声が聞かれたが、今一度、「外国人」の意味を定義し直す必要がありそうだ。

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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト

 東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・ トリノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』 『AERA』 『サンデー毎日』 『ニューズウィーク日本版』 『週刊ダイヤモンド』などに寄稿。日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳も手がけるかたわら、日米での講演も行う。共訳書に『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』『窒息するオフィス――仕事に強迫されるアメリカ人』など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com

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